2023年5月25日木曜日

ある夏の日、公園での出来事

あれは数年前、とても暑い夏の日の出来事でした。
散歩で汗をかいた私は途中に寄った公園の水飲み場の水道を使って、おもむろに顔を洗い汗で汚れたハンドタオルに水を浸しては絞って… 
を繰り返していました。


その間、数十秒かせいぜい一,二分のことだったと思いますが、私が気付かないうちに何者かが近寄ってきていたようで、突然

「おいお前、いつまで使ってやがるんだ」
という声が聞こえてきました。

声の主は自転車に跨った五十代か六十代くらいの、少々ガラの悪い男だったのですが、直感的にこいつが相手なら余裕で勝てると感じた私は

「はあ? 何言ってんの?」
という感じで睨み返したのでした。

いつもならこのような輩は相手にすることもなく、無視してそそくさと立ち去るのですが、(いつものことですが)暇だったこともあり少し相手にしてやろうかと思ったのです。

私は努めて冷静に相手の話を聞いているつもりだったのですが、その冷静な態度が却って挑発的に映ったのか、業を煮やして自転車に乗ったまま私の方に向かって突っ込んできたのです。

私は持ち前のフットワークで難なくスルリとかわしつつ、さらに向かってこんとする相手に向かって

「どうしたオッサン!もう終わりか?」

などと、蝶のように舞い、蜂のように刺すモハメド・アリのごとくさらに挑発を続けていたのでありました。
(昼間からオッサン同士でまことにみっともないことですが… )

そして、しばらく膠着状態が続くと相手は

「お前は昼間っから仕事もせずに何してやがるんだ」
「(会社を)クビにされたか?」
と言ってきたので。

「無職だよ、それの何か悪い?」
と言い返しました。

すると、どうしたことか…

相手は急にトーンダウンして、

「そうか…、まあ俺にもそんな時期があったよ」 
と同情的な顔になり

「俺も急がせて悪かったよ… 」 
といいつつ水を飲むと

「後はゆっくり使ってくれ」 
などと言葉を残して立ち去っていったのでありました。

これは一体どういうことだったのか?

もし私があの場面で、

「俺は高等遊民で仕事をする必要がないくらいの資産があるんだよ」
などと火に油を注ぐような発言をしたら相手はさらに逆上したのであろうか…

ここまで読まれた方はそう思うのかもしれないが、それは違うと思う

相手はとにかくこの争いを一刻も早く終わらせたかった

なぜならこの私を相手にして
口論であれルール無用のセメントマッチであれ勝ち目はない。

それ故言葉巧みに論点をずらすことで、私からこの争いを終息させるべく口実を引き出したのではないか。

そう考えると、わずか数十秒の攻防の中で自分の劣勢を咄嗟に判断し、面子を保ちつつ無傷のまま終戦に持ち込んだことに対しては、敵ながらアッパレと思ったのでありました。

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